かつて日本では「アウトソーシング」が大流行しました。あらゆるものを外部へ委託することで経費が削減するという発想で、サポートはもちろんのこと、経理や開発、果ては営業部隊のアウトソーサーまで現れました。一見するとこれは大幅な経費削減ができたように見えました。
今でも日本はアウトソーシングを中心に考えています。たとえば開発に関しては極力自社内で開発せず、下請け孫請けへと仕事が流れていく構図です。開発を持たずに下請企業を利用して開発を行うとどうなるのか。いくつかの企業から伺った話をもとにどこの企業側からないように内容を混ぜながらご紹介します。
ある企業が基幹業務システムの更新を行うことになりました。以前はパッケージソフトでやっていたのですが、業務拡大に伴ってそのパッケージソフトだけでは上手く廻らなくなり、今回はフルスクラッチで使いやすいものを作ることにしました。そこで大手SIerへ見積もりを取り、プレゼンテーションを行って、一番安いところに決めました。安いといっても何千万円という大きな金額です。要件定義が終わり、細かいGUI回りの修正要望はしたものの基本設計は当初決められたとおりで進行していきました。はじめこそ開発は順調に進んでいるという報告がなされていました。しかし、途中から遅れが目立つようになり、そのたびに「開発人数を増やして対応しています」という回答が返ってくるばかり。最終的に1ヶ月遅れて納品となりましたが、出来上がったものは、表面上は動いているもののマニュアルにない少し特殊な動きをするととたんにフリーズしてしまうような代物だったそうです。
発注側は当然なぜこんなことになったのか原因を追究します。当初はあれこれいい逃れをしていたSIerでしたが、3ヶ月以上まともに稼動しなかったことからSIerへ発注元の社長を含めた幹部が乗り込んで追及したところ、以下の構図が明らかになったそうです。
このSierは今回のプロジェクトを3つにわけ、それぞれを下請けにそのまま投げました。下請けは自分たちの担当部分を切り分けさらに孫請けへ投げます。孫請け側はそれを基に仕様書どおりに作成しました。下請けは下請法の関係から要件定義に問題がなかった時点で納品とすることになりました。ここまでは問題なかったのです。
最初の躓きは孫受けから来たプログラムモジュールを結合するところで発生しました。モジュール間で当然データのやり取りをするわけですが、その部分で齟齬が発生して想定した動きにならなかったのです。下請け側は孫請けに対して修正要求をし、仕方なく孫請け側はその要求どおりに修正を試みるのですが、当初納入したものは使用どおりになっていて、そこからの修正は孫請けの持ち出しになってしまうことから別の案件へ人が廻ってしまっていて、なかなか進みません。孫請け側はいったん納品が完了していることから本来は追加費用を請求できるはずですが、今後の関係もあるのでそこはなかなか文句をいえません。しかし、それだけのリソースをまわす余裕は孫請け側にはないのでさらに遅れるという堂々巡りでした。孫請け側での処置が何とか完了していざSIerが結合しようとしたところ、さらにここでも問題が発生します。修正するには孫請け側に依頼しなければならないのでさらに時間がかかるという始末です。
最終的に別の孫請けに追加費用を出して修正が入って何とか動くようにはなったのですが、そもそも案件定義のときには居なかった孫請けですから想定されていない操作を作りこむところまでは発注に入っておらず、想定していない動きをすると問題が発生するという代物になってしまいました。
この会社の方は「IT関係の投資はいつもこんなことばかりで高いお金を出すのにトラブルばかりだ」と嘆いています。
こういう話、私もよく聴きますし、実際に体験したこともあります。みなさまもけっこう体験されている話なのではないでしょうか。
ここで視点を少し変えた話をします。
いま諸外国のみならず日本国内で非常に強い力を持っている二つの外資企業があります。GoogleとAmazonです。この両社に共通していること、それは開発やサポートをすべて自社で雇用する正社員によって完結しているということです。これが今の日本に欠けている大きな問題点です。この会社の方も「国内SIerで全部自社内で完結できるところをしらないので今度は国外で一環開発をしているところに依頼しようと思っている」と話しています。つまりいま求められているのは受託した開発案件を開発から保守まで一貫して自社で担当してくれる企業ということです。実は一時期の日本でもこの動きをとっていた唯一といってもよいIT企業がありました。それがlivedoorです。堀江氏に対する評価はいろいろだと思いますが、livedoorは当時のIT企業の中でずば抜けた技術力を持ち、先端的な開発とサービス提供をしていた企業だったのです。ですから堀江氏が逮捕されたとき、livedoorのサーバ群はあれだけのアクセス数がありながら少し重くなった程度で稼動を続けることができたのです。今の日本で主要なIT企業といえば楽天とYahooですが、どちらもアクセスすればわかるようにちょっとした事件事故があるだけですぐにサーバが重くなります。Yahooブログにいたっては平常時でもかなりの重さです。堀江氏がもし逮捕されていなかったらもしかしたらlivedoorはGoogleとならぶ国内発の巨大IT企業になっていたかもしれませんが、それはもう今となっては夢想でしかありません。
話が若干脱線しました。
もうアウトソーシングの時代は終わりです。いま日本企業に求められていることはすべてを内製化して、自社の責任のみでサービスの提供を行うという体制作りです。それが競争力強化と新規製品の開発へとつながっていきます。派遣やアルバイト、下請けを活用して適当にお茶を濁す時代はもうおしまいにしましょう。